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世界初のAndroidケータイ「G1」を開けてみた

(2008-12-02 01:50:18) 下一个
「内部は,意外にしっかりした作りだ。端末単体で399.99米ドルという,スマートフォンとしては破格の値段をいかにして実現したのだろうか…」。米Google Inc.の携帯電話機用プラットフォーム「Android」を搭載した世界初のスマートフォン「T-mobile G1」。本誌は,米T-mobile USA,Inc.が米国で発売したばかりのG1を入手し,国内メーカー技術者の協力を得て分解を試みた。作業に協力したある技術者が漏らしたのは,冒頭のような感想だった。

 G1の販売価格は,比較的似た機能を備えたスマートフォンと比較して2/3以下と安い注1)。G1は,2年間の通信サービス契約とセットで購入すると,179.99米ドルとさらに低価格になる。G1の製造は,最近のスマートフォン製品を数多く手掛ける台湾HTC社が担当した。

 G1の使用感は,現行の一般的なスマートフォンと同等以上と言える。例えば入力用のユーザー・インタフェース(UI)には,タッチ・パネル,5段のQWERTY配列のキーボード,そしてトラックボールの3種類を備える。3種類のUIを備えるスマートフォンは,「WILLCOM D4」程度にとどまる。UIの選択肢が多いと,場面に応じて好みの手法を使い分けられるというメリットがある。ただし,タッチ・パネルに関してはiPhoneと異なり,同時に複数の接触を検知するマルチタッチ機能は備えていない。

目に見える部分は標準的


 G1は,液晶パネルなどを実装したディスプレイ側筐体と,キーボードや各種の基板を実装した本体側筐体で構成される。ディスプレイ側筐体をスライドさせると,キーボードが顔を出す。

 このうち,ディスプレイ側筐体や液晶パネル,および本体側筐体の表面などには標準的な部材が使われており,製造コストを抑えた構成になっている(図1)。具体的には,タッチ・パネル,2次電池を覆う裏側のフタ,メイン基板を収めた筐体に至るまですべてプラスチック製であり,やや高級感に欠ける。「タッチ・パネルの素材は,プラスチックだ。同部分にガラスを使っているiPhoneと比べて,明らかに低コストの部材を用いている」(分解に携わった技術者)。タッチ・パネルの素材は,日本写真印刷もしくはグンゼの製造品とみられるという。タッチ・パネル用ASICやそれを本体につなぐフレキシブル・ケーブルは,米Synaptics,Inc.製だ。特殊なLiポリマ2次電池を内蔵したiPhoneと異なり,電池は容量が1150mAhの一般的なLiイオン2次電池で,ユーザー自身が交換できる。

メイン基板に多数の0603部品


 一方で,メイン基板は技術者が手に取って眺めながら何度も感心するほどの高密度実装になっている(図2)。基板は,その隅に「M」の刻印があり,パナソニック製とみられる。基板の片側(表側)にW-CDMA/HSPA向けの無線通信用IC群を実装し,反対側(裏側)にGSM/EDGE向けのIC群を実装している。

 技術者が驚嘆の声を上げたのが,この表側である。米Qualcomm Inc.の,携帯電話機用チップセットの周囲に,0603サイズの部品がびっしりと実装されていた。このチップセットにおける「MSM7201A」は,AndroidのOSとなるLinux kernelの実行用アプリケーション・プロセサも兼ねている注2)。「0603部品はiPhoneの基板でも使われていたが,これほど多くはなかった」(同技術者)。このほかにも,メイン基板表側には価格の高そうな部品が多く使われていた。例えば,複数の周波数帯を切り替えるRFスイッチは,ソニーの「SP9T(single pole nine throw)」型の製品である。「BlackBerry Boldで利用されているものと同一」(技術者)という。

コンパス用モジュールは日本製


 メイン基板の裏には通信用IC群のほかに,IC間の連携を補助する役割とみられる米Xilinx,Inc.製のCPLD†である「CoolRunner-Ⅱ(XC2C128)」が実装されている。

 メイン基板の裏にはこのほか,旭化成エレクトロニクスのコンパス用磁気センサ兼加速度センサ・モジュールがある。このコンパス機能とGoogle Mapsを組み合わせて利用することで,「ユーザーが向いた方向の景色を表示できる」(T-mobile社)というG1の目玉機能を実現している。

 無線LANやBluetoothの送受信機能は,メイン基板とは別のサブ基板に集約した(図3)。送受信用ICはいずれも,OHA(Open Handset Alliance)のメンバー企業である米Texas Instruments Inc.(TI社)製である注3)。

 技術者によれば,「TI社の無線LAN用ICは,携帯電話機では一般的だ。ただ,このサブ基板は無線LANモジュールと一体化しているなど,実装手法が非常に興味深い」とする。サブ基板には,トラックボールの動きを検知するICも実装されている。技術者はこれを見て,「BlackBerry Boldで使われているものとほぼ同じ」と指摘した。

「これじゃ商売にならない」


 意外にも価格の高そうな部材を多く使っているG1だが,唯一「これでは部品提供メーカーは単価が低すぎて商売にならないだろう」と技術者が嘆くほど,コスト低減を追求した部品がある。それがアンテナ群だ。

 携帯電話用とGPS用のアンテナは,約0.2mm厚と薄いAl箔で,黒い筐体にシールのように張られている(図4,図5)。アンテナは筐体の外側にむき出しになっているが,黒い塗料が塗られているため,ユーザーには筐体の模様のようにしか見えない。無線LANやBluetooth向けの2.4GHz帯アンテナも金属製で,筐体の中に目立たない形で実装されている。これもコストをあまり掛けていない印象だ。

 G1はメイン基板には高密度実装技術を駆使するなどでコストを掛けているものの,その他の周辺部品には思い切ったコスト低減を図っており,メリハリを利かせた構成と言える。加えて,その低価格実現にはAndroidというソフトウエア・プラットフォームを利用したことによるコスト低減効果も,考慮に入れる必要がありそうだ。

(野澤 哲生)





注1) 例えば,シャープ製のスマートフォン「WILLCOM D4」は,端末単体で9万7700円,Apple社の「iPhone 3G」は同600米ドル程度,カナダで先行発売されたResearch In Motion社製の「BlackBerry Bold」は同599.99米ドルである。BlackBerry Boldは,日本でもNTTドコモが2009年第1四半期に発売する予定。

注2) Qualcomm社製のMSM7200シリーズは,ARM9とARM11のコア,およびDSPなどを搭載する。ベースバンド/MAC処理をARM9コアで実行,ARM11コアなどがアプリケーション・プロセサとして動作する。




†CPLD=complex programmable logic device。プログラム可能な論理IC。マクロセル数が少ない製品は単価数百円である。小規模のFPGAをその代わりに利用することがある。




注3) TI社はG1が全米で一般発売された2008年10月22日に,「OHAのメンバー向けなどに,無線LANとBluetoothのソフトウエア・ドライバなどの技術的サポートを拡大する」と発表した。





図1 「T-mobile G1」の構成要素裏側のフタと電池以外の主要な基板や筐体を,すべて並べた。メイン基板から延びる細長いケーブルは,携帯電話およびGPS用アンテナ接地用の基板につながっている。サブ基板には主に無線LANやBluetoothの通信用IC群が実装されている。振動モータがメイン基板と,タッチ・パネルのすぐ裏(写真では右横)にある金属板の上端にあるのが分かる。今回のG1では,触覚フィードバック機能は提供されていないが「タッチ・パネルの裏の振動モータは,次期製品向けに実装されている可能性がある」(技術者)という。

図2 メイン基板は携帯電話向け通信用IC群を実装メイン基板の表側には,W-CDMA/HSPA向けの通信用IC群を実装してある(a)。Qualcomm社製IC群の周囲には0603サイズの受動部品が多数並べられている。GSM/EDGE向け通信用ICが実装された裏側には, Xilinx社製CPLDと,コンパス機能向けの旭化成エレクトロニクスの磁気センサ・モジュールが実装されている(b)。振動モータの左横には,パナソニック製の基板であることを示す「M」の刻印がある。部品のメーカー名と用途は,本誌の推定。(写真:林 幸一郎)

図3 サブ基板には無線LANやトラックボール用センサを配置サブ基板の表側には,TI社製の2.4GHz帯無線LAN用送受信モジュールと,トラックボールの動きを検知するホールICが実装されている(a)。基板の右端には,リアルタイム・クロックの補助電源と思われる電気2重層キャパシタらしき部品が置かれている。基板の裏側は,やはりTI社製Bluetoothの無線送受信ICと,USBやmicroSDカードのソケットが実装されている(b)。下に延びたフレキシブル・ケーブルと端子を介して,メイン基板と接続される。

図4 携帯電話用アンテナは薄いアルミ箔筐体に張り付けられていた携帯電話用アンテナ(中央手前)と,張り付いたままのGPS用アンテナ(右)。無線LANとBluetoothには,長さが約1/8波長の金属製アンテナを用いている。

図5 アンテナ用接地基板はケーブルでIC群と離れた位置にGPS用アンテナの接地およびアナログ・フロントエンド用基板とケーブル,そしてトラックボールのモジュールを示した。基板の裏にはAu箔が一面に張られている。基板上の大きな黒い部品は,「LNAではないか」(技術者)。トラックボール・モジュールは,BlackBerry Boldのものと共通している。
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