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体験することと、見ることと、聞くこと

(2011-03-13 04:49:03) 下一个

 3月11日午後、ここ静岡でも思わず外に飛び出すほどの揺れを感じた。庭の池の水が、大きく波打っている。道を歩いていた人や車を运転していたは気がつかない様子。震度4。
 一気にどかんとくる突き上げるようなたて揺れではなく、大地がまるごと揺さぶられているようなゆっくりとした横揺れが長く続いた。
 大きかったね、長いね、怖いね、と言い合いながら、震源地もきっと近くだろうと予想した。ところが、5分ほど経ってネットを見てみると、震源地が三陸沖?それで、静岡でこれだけの揺れだとすると、もしかして大きな規模の地震なんじゃないか?各地の震度は?震度7っていうところがある!

 それからずっとテレビの前で刻々と伝えられる情報や映像に見入った。
 テレビをずっと見ていたら、胸がざわついて、不安や恐怖でいてもたってもいられないような気分になってきた。
 翌日も、テレビは、断片的な被災状況を絶え間なく流し続けている。しかし通信や交通の遮断によって全容はなかなか明らかにならない。
 幸い被災地にならなかった自分が、こうして普通の生活をしていることが奇妙に思えてくる。くらくらと眩暈がする。胃が痛い。普段揺ぎないものだと信じて疑わないこの生活を一瞬にして失ってしまうことが、因果応報の条理から外れた天からの突然の采配によって起こり得るのだという恐ろしさ、そういう危うさの上に成り立っている私たちの存在の軽さ、生の不確実さ、という想念に押しつぶされそうになる。

 その日はちょうど、母が友人たちを家に呼んで食事会をする予定であった。地震発生後、しばらくして、友人の一人から電話がかかってきた。
 友人:今日の食事会、やめにする?
 母: え~?どうして?
 友人:テレビを見ていたら、なんだか気持ちが悪くなっちゃって。それどころじゃない感じ。
 母: 皆で集まっておしゃべりした方が気がまぎれるよ。

 名古屋の妹に電話すると、6歳の姪っ子が電話を取った。
 ママね、こわムシなんだよ。ママとあたしとね、一緒にくっついて、怖い怖いって、テレビ、見てるの。

 家にいた上の妹が、何かに取り付かれたように、水と懐中電灯を買いに行くと言って出かけた。帰ってきて、ヘルメットが売り切れだった、どうしよう、と言う。スーパーがすごく混んでたよ、と不安げに言った。母が、今日、広告が入ってたからでしょ、大売出しだから、と、こともなげに答えた。

 ざわつく心を持て余しながら、私はある人のブログに次のようなコメントを書いた。
 …テレビを見ていると辛くて怖くなるのですが、見ずにもいられません。幸い被災地にならなかった自分がこうして普通の生活をしていることが奇妙に思えます。すぐそこで、大勢の人々が犠牲になっているというのに。
 すると、次のような返事をいただいた。
 …テレビやネットでいろんな画像が入りますが、これらを見てはたして[体験]といえるのか?かえって慣れ?てしまうのではないかという怖さをかんじます。
 私は、はたと気づいた。
 そうだ、結局のところ、私はこれをただ「見ている」だけなのだと。「体験しているのではない」。
 普段、誰かの身になってみるということは、とても大切なことだけれども、今私はこれをただ「見ている」のであって、決して「体験してはいない」。それを混同してはいけないと思った。(コメントの返事を書いた方の意図とはおそらく違うものなのだろうけれども。)
 被災地の人々は家族や家を失って辛い思いを抱えながらも、生きている自分が今をどう過ごすか、この一日をどう乘り越えるか、に精一杯の状況だろう。起きたことを映像によってテレビの向こうに「見ている」私たちは、心はそれをあたかも体験しているように感じながら、一方で、身体は今までと同じ生活を送っている。普通に食べ、飲み、お風呂に入り、暖かい我が家で眠りに着く。
 否が応でも、生きるために、食べるものや着るもの、寝る場所のために体を対応させねばならない「体験している」人々と違って、「見るもの」は安全な場所に居ながら、心だけが焦燥に駆られ、不安やパニックに襲われる。

 映像のインパクトがどうしても強いので、ついテレビばかり見がちになるけれど、じっくりと新聞を読むと、少し落ち着くような気がする。新聞には被災者の人々の「声」が載せられていた。
 上空から映される焼け野原のような情景をテレビで「見る」よりも、活字になった被災者の人々の「声」を「聞こう」と思う。
 自然災害の圧倒的な威力を見せつけられて心がくじけてはいけない。それを体験している人々の、ひとりひとりの声に耳を傾けて、自分ができることを考えていこう、と自分自身に言い聞かせる。

……
 3日目の午後になり、現地に記者が入り、テレビからも被災者の肉声が届き始めた。

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